相続時精算課税制度の仕組みと活用方法
2024年11月22日 11:17
1. 相続時精算課税制度の概要
相続時精算課税制度は、生前贈与を受けた際に、その贈与にかかる贈与税を一定額まで非課税にし、相続時に精算する仕組みです。贈与税と相続税を一体的に捉え、生前贈与を活用しやすくすることを目的とした制度です。
(1) 制度の基本ルール
1. 非課税枠(累計):
• 累計で2,500万円までの贈与について、贈与税が非課税となります。
2. 課税対象:
• 非課税枠(累計2,500万円)を超える贈与については、一律20%の贈与税が課されますが、この税額は相続時に控除されます。
3. 相続時の精算:
• 贈与された財産は相続財産に合算され、相続税が再計算されます。
• 生前に支払った贈与税は相続税から控除可能。
(2) 適用条件
1. 贈与者(財産を渡す人):60歳以上の親または祖父母。
2. 受贈者(財産を受け取る人):18歳以上の子どもまたは孫。
3. 申告義務:制度を利用する場合、最初の贈与時に税務署へ「相続時精算課税選択届出書」を提出する必要があります。
4. 選択後の取り扱い:一度選択すると、以後の贈与においても同じ制度が適用され、暦年課税(年間110万円の基礎控除)に戻れません。
(3) メリット
• 多額の贈与を非課税で行える:累計2,500万円までの贈与が非課税で進められる。
• 資産の早期移転が可能:相続税対策として、早期に財産を次世代に移転できる。
• 相続時に精算できる:生前贈与時に支払った贈与税は、相続税に充当される。
(4) デメリット
• 暦年課税に戻れない:10年以上の贈与を計画的に行う場合は、暦年課税が適している傾向にあります。
• 相続時の負担:相続財産に贈与財産が加算されるため、基本的に相続税の節税対策にはなりません。
• 手続きが煩雑:申告や記録の管理が必要になります。
2. どういったケースに相続時精算課税制度は向いているか?
(活用例①) 親が子どもに収益物件(アパート等)の建物のみを贈与(所得分散効果)
• 状況
• 60歳以上の親が、2,500万円(固定資産税評価額)の収益物件(建物のみ)を18歳以上の子どもに生前贈与。
• 活用方法
• 相続時精算課税制度を選択し、固定資産税評価額2,500万円の収益物件の建物のみを子供に贈与。
• 贈与税は非課税(2,500万円の枠内)。
• 効果
• 賃料収入等の収益は建物の所有者の所得(贈与した子供の所得)になる。
• 親が所有する賃貸物件を、子どもに贈与することで、賃貸収入を子どもの所得として分散。
• 所得分散による相続税対策(親の資産増加の対策)になる。
• 子供の金銭的な負担を軽減しつつ、将来の相続税納税資金として賃料収入を活用できる。
• デメリット
• 登記費用などの所有権移転コストがかる。
• 親の所得が減る。
• 将来的な相続計画を含めて、土地と建物の所有権の一体管理を検討する必要があります。
(活用例②) 相続財産が基礎控除の範囲内で早期の資産移転を行いたいケース
• 状況
• 60歳以上の親が、預貯金3,500万円(預貯金のみが資産である)の内を2,500万円を18歳以上の子どもに生前贈与。
• 相続税の基礎控除は3,600万円(3000万円+600万円・法定相続人1人)である。
• 活用方法
• 相続時精算課税制度を選択し、2,500万円を子供に贈与。
• 贈与税は非課税(2,500万円の枠内)。
• 効果
• 子供は贈与された現金2,500万円を自由に活用可能。例:住宅購入、投資運用、教育資金の充当。
• 非課税枠(2,500万円)内で贈与しているため、贈与税は発生しません。
• 相続財産が基礎控除内に収まるため、相続税は発生しません。
• 贈与された現金の用途について家族間で合意しておくと、将来的なトラブルを防ぐことができます。
(活用例③) 不動産を贈与し、認知症リスクに備えるケース
• 状況
• 配偶者を亡くした高齢の親が、現在一人暮らしをしている。
• 将来的に施設入所等が必要になった際、現在の預貯金では費用を賄えそうにない。
• 足りない費用を所有不動産の売却資金で用意したいと考えている。
• しかし、認知症になった場合、所有不動産(駐車場として運用)を売却するための判断能力がなくなるリスクがあるため、売却できない可能性(不動産の売却には本人の意思確認が必要)がある。
財産の概要:
• 自宅不動産:2,000万円(評価額)
• 駐車場:1,500万円
• 合計:3,500万円
親は不動産を所有していますが、将来、認知症になることで不動産の売却や活用が制限されるリスクを懸念しています。そのため、相続時精算課税制度を活用して自宅を早めに子供に贈与し、資産凍結のリスクに備えます。
• 活用方法
• 父親が駐車場(評価額1,500万円)を子供に贈与。
• 贈与税は非課税(2,500万円の枠内)。
• 効果
• 駐車場の名義が父親から子供に変更されます。これにより、不動産は子供の所有財産となり、親が認知症になった場合でも、子供が自由に売却や賃貸運用が可能になります。
• 成年後見制度を利用する必要がなく、家族の手間や費用を軽減できます。
• デメリット
• 登記費用などの所有権移転コストがかる。
• 小規模宅地の特例が適用出来なくなる。
• 家族信託との比較検討が必要。
ーーまとめーー
相続時精算課税制度は、相続財産が基礎控除内に収まる場合、贈与税の負担を避けつつ、生前贈与を進めるための有効な手段です。特に資産の早期移転によって、相続後のトラブル防止や子どもの生活支援、財産運用の柔軟性を高める効果が期待されます。ただし、制度選択後の制約や贈与財産の評価に注意し、事前に専門家と相談しながら進めることをおすすめします。
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相続・不動産の相談窓口 合同会社エボルバ沖縄 棚原 良太