生前贈与が相続に影響?特別受益の基本と注意点。その1
2024年11月15日 16:09
相続は、家族間の財産を引き継ぐ大切な手続きですが、生前に特定の相続人が多額の贈与を受けていた場合、その公平性が問われることがあります。このような場合に調整する仕組みが『特別受益』です。
例えば、自宅の購入資金や事業の援助として生前に大きな支援を受けた相続人がいた場合、それを考慮せずに遺産を分割すると、他の相続人との間で不公平が生じる可能性があります。特別受益は、このような不平等を解消し、相続人全員が納得できる分配を実現するために設けられた制度です。
本記事では、特別受益の仕組みや具体例、相続に与える影響についてわかりやすく解説します。
特別受益の具体例と計算方法
被相続人(父)が遺産3,000万円を残して亡くなりました。相続人は母、長男、次男の3人です。
• 長男は父の生前に自宅購入資金として1,000万円を受け取っていました(特別受益)。
• 特別受益の有無によって相続分をどう計算するかを考えます。
1. 特別受益を持ち戻して遺産を計算
特別受益がある場合、相続財産に持ち戻して「みなし相続財産」を計算します。
• 遺産額(現存する財産)3,000万円 + 長男が受け取った1,000万円(特別受益) = 4,000万円
これが、相続人全員で分配する財産として扱われます。
2. 法定相続分の計算
法定相続分に基づいて、相続人の取り分を計算します。
• 母:1/2(50%) → 4,000万円 × 1/2 = 2,000万円
• 長男:1/4(25%) → 4,000万円 × 1/4 = 1,000万円
• 次男:1/4(25%) → 4,000万円 × 1/4 = 1,000万円
3. 実際の分配額(法定相続分で分配した場合)
特別受益をすでに受け取っている長男の相続分は、生前に受け取った金額分を控除して計算します。
• 母:2,000万円(特別受益なし)
• 長男:1,000万円(相続分) - 1,000万円(特別受益) = 0円
• 次男:1,000万円(特別受益なし)
結果として、母が2,000万円、次男が1,000万円を相続し、長男はすでに生前に1,000万円を受け取っているため、特別受益を考慮すると新たに相続する財産はありません。
上記のケースでは住宅購入資金として1,000万円の生前贈与が特別受益の対象になっていますが、以下に、特別受益の対象となる具体的な事例を挙げながら説明します。
特別受益の対象となるもの
1. 結婚や養子縁組に伴う贈与
被相続人が、相続人に対して婚姻や養子縁組を機に提供した多額の金品や支度金などが該当します。
• 具体例:
• 結婚祝いとして高額な金銭(持参金)を渡した。
• 新居購入の頭金を援助した。
2. 自宅や土地の贈与
被相続人が、生前に相続人へ不動産を贈与した場合、それが特別受益として扱われることがあります。
• 具体例:
• 自宅用の土地や建物を無償で譲渡した。
• 家業のための事務所や店舗の土地を提供した。
3. 高額な学費や教育費の援助
通常の範囲を超える学費や教育費を負担した場合、特別受益に該当することがあります。
• 具体例:
• 留学費用の全額負担。
• 私立大学や専門学校の学費を支援した(他の相続人への支援と大きな差がある場合)。
4. 事業資金や起業支援
被相続人が、生前に特定の相続人に対して多額の事業資金を援助していた場合も特別受益となります。
• 具体例:
• 開業資金や店舗運営資金を提供した。
• 借金の肩代わりをして返済を免除した。
5. 金銭の贈与
相続人が生前に多額の金銭を贈与されていた場合、それも特別受益の対象になります。
• 具体例:
• 多額の生活費や援助金を定期的に受け取っていた。
• 車や高額な家具を購入してもらった。
対象外となるケース
一方、以下のようなものは対象外となる例です。
1:一般的な扶養の範囲内での援助
• 通常の生活費や医療費の負担。• 一般的な義務教育までの学費。
2:相続人以外への贈与・遺贈
• 孫や友人への贈与。
3:生命保険金
• 相続人を受取人とする死亡保険金は相続人固有の財産とみなされます。
4:特別受益の元戻し免除の意思表示
• 被相続人が遺言書等で「特別受益を相続財産に加えず、そのまま受益者(貰った人)の取り分として扱う」という意思を表明することです。
5:婚姻期間20年以上の配偶者への居住用不動産の贈与
・2019年7月1日施行の改正民法からは、婚姻期間20年以上の配偶者に居住用不動産(または取得用の金銭)を贈与した場合、持ち戻し免除と推定されることになりました。
ーーまとめーー
特別受益は、生前に特定の相続人が受け取った利益を考慮し、相続の公平性を保つために重要な仕組みです。しかし、その対象や計算方法、持ち戻しの有無、遺留分との関係は複雑であり、相続人間で意見が分かれることも少なくありません。被相続人が意思を明確に示さないと、家族間でトラブルが発生するリスクもあります。
そのため、生前贈与や相続について計画する際は、遺言書を活用して特別受益や持ち戻しの免除を明確にし、相続人全員が納得できる形を目指すことが大切です。複雑な相続分配や特別受益に関する問題は、専門家に相談することで解決策が見つかる場合が多いため、早めの相談と準備を心がけましょう。
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相続・不動産の相談窓口 合同会社エボルバ沖縄 棚原 良太