相続・資産承継コラム

なぜ相続対策に賃貸経営なの?

2024年11月08日 18:28

「相続対策でアパートを建てましょう!」という話をよく耳にした事はないでしょうか?


相続対策として、賃貸経営がよく宣伝されていますが、それにはいくつか理由があります。


賃貸経営を行うことで、相続税の評価額を抑えつつ安定収益も得られるため、資産価値を維持しながら相続税を軽減できるメリットがあるからです。不動産の評価額が現金よりも低く算定される理由や、家賃収入で納税資金を確保できる点など、賃貸経営ならではの相続対策の仕組みを紐解いていきましょう。


①不動産の評価には独自のルールがある

※1億円の現金でアパート経営(土地5,000万円建物5,000万円)すると相続税評価は約半分になる


仮に金融資産を多く持っていたとします、ここではわかりやすく、大きい金額ですが1億円とします。

相続が発生したら、その一億円の現金には、相続税が課されますから、結構大きな税金が課税されています。

では不動産を購入するとどうなるでしょう。例えば5000万円の土地を購入して、その上に5000万円の建物を建てたとします。

そうすると、建物の相続税評価というのは固定資産税評価額になります、固定資産税評価額というのは新築の段階ですでに半分くらいまで圧縮されています。つまり5000万円で新築した建物は相続税評価額が2500万円ぐらいになります。

一方で、土地の相続税評価は路線価というものを基準に算出しますが、これは土地によって多少の違いがあるんですが、大体7〜8割くらいの圧縮効果があります。もともと1億円だった現金が、概算ではありますが6000万円くらいまで圧縮する事ができるんです。不動産は相続税の評価上非常に有利になります。

しかも、その一億円を使って手に入れた不動産を賃貸するのであれば、さらに評価が下がります。自分で使用しないで、誰かに貸しているという意味で評価が更に低くなります。この低くなる割合は借地権割合や借家権割合と言われるものがあって、それを適用すると約4600万円まで評価を圧縮する事が出来ます。もとの一億円と比べると半分以下の評価になるわけですから非常に大きな節税効果が見込まれます。


下記は評価方法の説明になります。


「土地は一物四価」、同じ土地であっても評価方法によって4つの異なる価額が存在することを意味します。これらの評価は、利用する場面や目的に応じて異なり、特に相続や税務において重要な役割を果たします。以下に、不動産における4つの主な評価方法を説明します。


1. 実勢価格(市場価格)

• 実勢価格は、不動産が実際の市場で取引される際の価格を指します。売買の場面で重視され、供給と需要のバランスによって変動します。不動産取引や資産価値の把握の際には、この価格が基準となります。


2. 公示価格(基準地価)

• 公示価格は、国土交通省が毎年3月に発表する価格で、土地の標準価格として位置づけられています。全国の主要な地点について設定され、取引の目安となる価格です。市町村の基準地価としても活用されており、公共事業の用地買収などでの参考価格になります。公示価格は市場価格の約7〜8割程度と言われています。


3. 固定資産税評価額

• 固定資産税評価額は、不動産に課税される固定資産税や都市計画税の算定基準となる価格です。各市町村が3年ごとに見直しを行い、公示価格のおよそ7割程度の価格に設定されています。この評価額は固定資産税や不動産取得税の計算に使われるため、税負担を把握する上で重要です。


4. 路線価(相続の評価は主にこちらを用います)

• 路線価は、相続税や贈与税の計算に用いる評価額で、国税庁が毎年発表します。主要な道路に面する土地に価格が付けられ、実際の相続税評価額はこの路線価を基準に計算されます。路線価は一般に市場価格の約7〜8割とされ、相続や贈与の際にはこの価格が基準となります。


例での違い

たとえば、ある土地の市場価格が5,000万円の場合、異なる評価方法による評価額は以下のようになります。

実勢価格(市場価格):5,000万円

公示価格:3,500〜4,000万円(市場価格の約7〜8割)

固定資産税評価額:3,000〜3,500万円(公示価格の約7割)

路線価:3,500万円(市場価格の約7割)


そこに借地権割合・借家権割合を含めて計算していきます。


借地権割合借家権割合は、土地や建物を借りている権利(借地権や借家権)に対する評価割合を示すものです。


借地権割合

借地権割合とは、土地の所有権に対する借地権の価値を示す割合です。借地権とは、他人の所有する土地を借りて利用する権利のことで、建物を建てるために土地を借りる際などに用いられます。

借地権割合は、地域ごとに国税庁が定めており、50〜90%の範囲で設定されることが多いです。地価の高い都市部などでは借地権割合も高くなり、土地の借り手の権利が強く評価されます。多くの地域では60〜70%で設定されています。


借家権割合

借家権割合とは、建物を借りている人(借家人)の権利として評価される割合です。借家権も借地権と同じく、賃貸借契約を通じて設定される権利であり、借家人が有する居住・使用の権利としての価値を示します。

借家権割合は全国で一律30%とされており、相続や贈与時の建物評価において、借家権付きの不動産は所有権としての評価額が圧縮される効果があります。


計算方法

貸家建付地(アパートの土地)の評価額=相続税評価額 ×(1-借地権割合×借家権割合×賃貸割合)

貸家(アパート)の評価額=固定資産税評価額 ×(1ー借家権割合×賃貸割合)


例題(土地5000万円・建物5000万円)の計算

土地の評価:3,500×(1-0.6×0.3×1)=2,870万円

建物の評価:2,500×(1-0.3×1)=1,750万円

※下記条件による概算です。

●建物の固定資産税評価額=建築費の50%で想定。土地の相続税評価額=流通価格の70%で想定(一般的な事例)

●借地権割合 60%●借家権割合 30%(すべて賃貸している場合を想定)



②税制上の優遇措置がある(小規模宅地の特例)


アパートの土地の評価は時価よりも低く算定された上に、更にそこから評価を下げる優遇措置があります。

それが小規模宅地の特例の中にある貸付事業用宅地等に適用されるものです。


貸付事業用宅地とは、相続や贈与の際に、不動産を貸し付ける事業に使用している宅地を指し、相続税や贈与税の計算において評価額を減額できる特例(小規模宅地等の特例)を利用できる場合があります。この特例は、貸付事業に用いられている宅地の相続税評価額を50%減額することで、相続人の税負担を軽減するものです。


貸付事業用宅地の条件と適用要件


1. 対象となる事業用宅地

• 貸付事業用宅地等として特例が適用されるのは、住宅や商業施設、アパートなどを貸し付けているために使用している土地です。相続開始時点で被相続人や相続人が貸付事業を営んでいるか、その貸付用地を継続して使用する予定がある場合に適用されます。

2. 減額対象の面積

• 貸付事業用宅地等として減額を受けられる土地面積は、限度面積200㎡までです。限度面積を超えた部分には特例が適用されませんが、200㎡までの部分には50%の減額が適用されます。



③金融機関から借入(アパートローン)で賃貸経営すると更に評価が低くなる


これは、不動産にかかる相続税の評価において、ローンなどの債務が考慮されるためで、賃貸物件をローンで購入した場合には、その分の債務が差し引かれて相続税の計算が行われるからです。


具体例


たとえば、現金6,000万円を保有していた場合、相続税の課税評価額も6,000万円です。

しかし、この6,000万円を元手に4,000万円のアパートローンを組み、1億円の賃貸アパート(土地5,000万円・建物5,000万円)を購入した場合、以下のような評価が可能になります。


(土地5000万円・建物5000万円)の計算

土地の評価:3,500×(1-0.6×0.3×1)=2,870万円

建物の評価:2,500×(1-0.3×1)=1,750万円

※下記条件による概算です。

●建物の固定資産税評価額=建築費の50%で想定。土地の相続税評価額=流通価格の70%で想定(一般的な事例)

●借地権割合 60%●借家権割合 30%(すべて賃貸している場合を想定)


債務控除(マイナスの資産)残債4,000万円


最終的な相続税評価額は「4,620万円 - 4,000万円=620万円」となり、現金6,000万円で保有していた場合に比べて評価額が大幅に引き下げられます。



ーーまとめーー

賃貸経営は、資産運用や相続税対策として非常に効果的ですが、あくまで『経営』です。資産の管理や運営には専門的な知識が求められるため、税理士や不動産管理会社、相続の専門家といったプロのアドバイスを受けながら、リスクとメリットを十分に理解した上で進めることが大切です。適切なサポートを得ることで、家賃収入や税負担の軽減といった賃貸経営のメリットを最大限に引き出すことができ、安心した資産管理や円滑な相続対策が実現できます。

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相続・不動産の相談窓口 合同会社エボルバ沖縄 棚原 良太