「相続した家が動かせない!? 共有名義のまま放置した不動産の悲劇
2024年11月03日 17:21
相続人の間で「平等に相続分を受け取りたい」と望む場合、不動産の共有分割は、各相続人に同等の権利を与える方法として選ばれることがあります。現金やその他の資産と違い、不動産は一つの物件を均等に分けることが難しいため、共有名義で持つことで一旦平等を保つ形にする場合があります。
または、実家や長年の思い出が詰まった不動産を、そのまま残したいという気持ちから、売却を避けて共有分割にするケースがあります。特に家族が集まる場であった実家は、子供たちにとっても「帰る場所」として残しておきたいという思いで不動産を共有名義にする場合もあります。
こうした理由から、不動産を共有分割にすることは多いですが、不動産の共有分割は、実は多くの専門家が進めない選択肢です。その理由は、共有者が増えることで意思決定が複雑化し、売却や管理が困難になるからです。『全員の同意がなければ何もできない』という現実があります。
そして時間の経過と共に、将来の意見の対立や税負担・維持費負担、相続が重なることでの権利関係の複雑化といった問題が発生しやすいからです。
誰も動かせなくなった相続不動産の現実を、ある家族をテーマにお伝えします。
「相続した家を兄妹で共有すれば、家族の思い出をそのまま残せる――そう考えていた佐藤家。」
佐藤家の父、健一さんが亡くなったとき、彼が残した実家をどうするか、兄妹3人は話し合いました。兄の一郎、弟の次郎、そして妹の美咲は、思い出の詰まった実家をそのまま残したいという気持ちから、「3人で共有名義にしておこう」という結論に落ち着きました。実家をそのまま残し、いつでも帰れる場所にしておきたいと考えたのです。
その後、次郎が新しい土地で家を建て、一郎もマイホームを購入しました。兄弟はそれぞれの家庭を持ち、生活に集中していく中で、自然と実家に戻る機会は減っていきました。唯一、独身の美咲だけが実家に住み続けていました。長い年月が経ち、実家は老朽化し始め、修繕の必要性が出てきましたが、離れて住む一郎と次郎は「家は美咲が使っているから」と、なかなか修繕費の分担には協力的ではありませんでした。
そんなある日、弟の次郎が病気で亡くなり、次郎の持ち分はそのまま彼の子どもたちである孫世代に引き継がれました。そして年月が経つうちに、兄の一郎も亡くなり、一郎の持ち分も彼の子どもたち、すなわち美咲にとっての甥と姪に相続されました。気づけば、実家の共有者は一郎と次郎の子どもたち、つまり親族全員で10人以上に増えていました。
一方で、美咲は今も実家に住み続け、家の老朽化が進む中でどうにか日常生活を送っていました。しかし、家のあちこちで修理が必要な箇所が増え、さすがに自分一人では負担が大きくなってきました。そこで、美咲は共有者である甥や姪たちに「一緒に修繕費を出し合ってもらえないか」と頼みましたが、彼らは「自分たちは実家には住んでいないし、修繕にお金をかける必要があるのか」と冷淡な反応でした。多くの共有者がすでに持ち家を持ち、実家への関心が薄れていたのです。
「それなら、この実家を売却して現金にして分けようか」と美咲が提案しましたが、一部の甥や姪は「思い出のある家だから残してほしい」と反対。一方で、「売ってほしい」「維持する必要はない」と主張する共有者も多く、意見は分かれるばかりでした。
最終的に、共有者が多すぎて意思決定が進まず、修繕も売却もできないまま実家は放置されてしまいました。共有者の間で負担も責任も分散されすぎてしまい、誰も実家を管理しようとしなくなったのです。
美咲は、自分が住み続けていた家をどうすることもできない状況に、無力感を抱きました。兄妹で共有した実家が、年月を経て関係者が増えることで、いざという時に何もできなくなってしまったのです。結局、佐藤家の実家は管理されないまま老朽化が進み、いずれは取り壊さなければならない状況に陥ってしまいました。
こうして、家族が思い出を守るためにと選んだ「共有分割」は、最終的に誰の役にも立たず、何もできない資産となってしまったのです。
ーまとめー
実務上でも多数の共有者名義になっている不動産を目にする事はよくあります。兄弟姉妹間でなら共有名義解消に向けての話し合いも出来ますが、そこから更に相続が発生して、誰も管理せずに固定資産税の滞納が長期化して、役所からの督促、差し押さえ、競売になるケースもあります。
円滑な相続を行うためには、共有分割を選ぶ場合、税負担・管理費用の負担割合や活用方法、売却や維持のルールなどを事前に取り決めておくことが大切です。たとえば、「何年後に売却する」や「管理費用はこのように負担する」など具体的な条件を定めることで、意思決定がスムーズになります。
可能であれば共有分割に頼らず、各相続人が負担なく資産を管理できる方法を選ぶのが理想です。単独相続や家族信託の活用、または売却による現金分割など、家族がそれぞれ納得できる形での準備をしておくことが、最終的には親が遺した財産を大切に守り、家族の絆を保つ最善の方法となります。
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相続・不動産の相談窓口 合同会社エボルバ沖縄 棚原 良太