守るだけで増やせない?成年後見制度がもたらす資産運用の壁
2024年11月01日 17:19
「大切な家族の資産を守りたい――そう思って選んだ成年後見制度。しかし、始まってみるとそこには想像もしなかった制約が待っていました。『資産保全』という名のもとで、運用はおろか、親が残したかった財産さえ自由に管理できない現実。安心して任せたはずの制度が、家族にとって重くのしかかるものになっていくとは、誰が予想できたでしょうか?」
判断能力が低下した後に利用出来る制度に成年後見制度があります。
この成年後見制度とは、
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認知症、知的障害、精神障害などの理由で、ひとりで決めることが心配な方々は、財産管理(不動産や預貯金などの管理、遺産分割協議などの相続手続など)や身上保護(介護・福祉サービスの利用契約や施設入所・入院の契約締結、履行状況の確認など)などの法律行為をひとりで行うのがむずかしい場合があります。
また、自分に不利益な契約であることがよくわからないままに契約を結んでしまい、悪質商法の被害にあうおそれもあります。
このような、ひとりで決めることに不安のある方々を法的に保護し、ご本人の意思を尊重した支援(意思決定支援)を行い、共に考え、地域全体で明るい未来を築いていく。それが成年後見制度です。
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上記が成年後見制度の主旨になりますが、実際にはいくつかの課題や問題点、いわゆる「落とし穴」とも言える側面があります。
今回はその「落とし穴」ともいえる側面を物語としてお伝えします。
佐藤健一さん(仮名)は、若い頃から真面目に働き、定年後も家族に支えられながら穏やかな暮らしをしていました。退職金や若い頃からの貯金を上手に運用し、慎重に投資にも取り組んでいました。彼は、老後を豊かに過ごすだけでなく、将来、息子夫婦や孫たちに何かを残したいと考えており、株式投資や不動産投資などを少しずつ勉強しながら、安定した資産運用を心がけていました。健一さんは「自分の人生をかけて築いた資産を、少しでも次の世代に渡したい」という強い思いを持っていたのです。
ところが、70代半ばを過ぎた頃、健一さんは体調を崩しがちになり、ある日、家族が付き添って病院を訪れた際、医師から「認知症の症状が見られます」と診断されました。本人の判断力が徐々に衰えていく可能性があることを告げられ、家族は深い衝撃を受けました。健一さんもまた、自分が財産管理を続けられなくなるかもしれない現実に驚き、少しでも家族に迷惑をかけないようにと、将来のことを考えるようになりました。
家族は話し合いを重ね、健一さんの財産を適切に管理しながら生活を支えるために、家庭裁判所へ成年後見制度を利用する申し立てをすることにしました。判断力が低下しても、財産が守られるという安心感と、家族が安心して健一さんのサポートをできるという期待もありました。こうして、家庭裁判所は後見人として健一さんの財産を管理できる弁護士を選任しました。
最初は、家族も「これで健一さんの財産は安心して守られる」と思い、ほっと一安心しました。後見人に選ばれた弁護士も「佐藤さんの資産はしっかりと管理させていただきますので、安心してお任せください」と語り、プロの管理のもと、健一さんがこれまで築いた財産がきちんと守られるのだと信じていました。
ところが、後見制度による管理が始まってから、家族は思いがけない制約があることに気づき始めました。健一さんが大切に保有していた株式や不動産は「資産保全」の名のもとに管理される一方、リスクがあるとして売買や運用が一切できなくなっていたのです。健一さんは「資産を守るだけではなく、少しでも増やして将来に残したい」という意向を持っていたため、株式や不動産をうまく活用し、年金の足しにしながら生活費や医療費の補填もしていく予定でした。しかし、後見制度のもとでは「保全」が優先され、増やすことは許されませんでした。
家族は「せっかくの資産がただ減っていくのを見守るしかないのか」と感じ、後見人に「少しずつでも運用して資産を守るための工夫ができないでしょうか」と相談しましたが、弁護士は冷静に「資産保全が目的のため、リスクのある運用は行えません」と説明するのみでした。さらに、後見人は健一さんが持っていた不動産についても「建物の老朽化に伴う維持・管理費がかかるため、保全の観点から売却が必要です」と話し始めたのです。
健一さんは、その不動産を孫に残してやりたいと考えていたため、家族としても売却には抵抗がありました。しかし、後見人は家庭裁判所の許可を得て、資産の保全と維持を理由に売却を進める方針を変えませんでした。家族は「健一さんの意志が全く反映されない」と強い無力感を覚えました。財産を守るために後見制度を利用したはずが、健一さんが築いてきた大切なものを、少しずつ失っていくような気がしてならなかったのです。
さらに、不動産売却後に得た現金も、後見制度の制約によって運用に回すことができませんでした。健一さんの財産は管理される一方で、維持費や生活費などで徐々に目減りしていくばかりでした。「健一さんの財産を、どうにか守りたい」「もっと柔軟に資産を活用していける方法があったのではないか」と、家族は深い悔しさと虚しさを抱き始めました。
この出来事を通じて、家族は、成年後見制度には健一さんの意思が反映されにくく、財産を「守る」だけの運用に限界があることを痛感しました。「事前に本人がまだ判断力のあるうちに、もう少し柔軟な資産管理方法を準備しておけばよかった」と悔やむ気持ちもありました。弁護士に相談して、今後の手段を尋ねる中で「任意後見契約」や「家族信託」という選択肢を学び、成年後見制度に頼らずに柔軟な資産運用を継続できる方法があったことを知ったときには、家族は複雑な感情を抱きました。
成年後見制度の思わぬ制約によって、家族が望んだ柔軟な資産管理が難しい現実を経験し、私たちは財産の管理方法について改めて考えさせられました。その中で知ったのが『家族信託』という方法です。家族信託では、信頼する家族が資産を管理するため、本人の意思を尊重しつつ、柔軟に資産運用や財産分配ができるメリットがあります。高齢になっても、資産を家族の未来や生活に活かすことが可能です。
しかし、家族信託を活用するには適切な準備と、法律や税務に精通した専門家のサポートが不可欠です。専門家に相談することで、個々の事情に応じた最適なプランを組み立て、家族にとって本当に安心できる仕組みを整えることができます。資産の管理方法は家族にとって大きな決断ですが、専門家のアドバイスを受けながら、最適な方法を準備することが、家族に安心と未来をもたらす第一歩となるでしょう。
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相続・不動産の相談窓口 合同会社エボルバ沖縄 棚原 良太