思わぬ相続人が現る!?
2024年11月16日 11:12
相続のタイミングで思わぬ相続人が判明するケースもままあります。
そういった場合、皆様ならどうお考えになるでしょうか?
今回は、ある事例をもとに物語としてお伝えしていきます。
ご相談者様は旦那さん(太郎さん)と結婚してから、二人三脚で生活を築いてきました。出会った頃、太郎さんには悲しい過去がありました。最初の奥さんを亡くされて、その奥さんとの間に一人息子がいたことを相談者様は結婚当初から知っていました。息子さんは彼がとても若い頃に前妻のご両親の養子に出されたとのことで、長らく連絡も取っておらず、再婚するころにはすでに疎遠になっていました。
太郎さんは新しい生活を始めると決めてから、過去を語ることはほとんどありませんでした。時折、物思いにふけるような瞬間があったけれども、相談者様はそっとしておくようにしていました。やがて新しい家族ができ、子供も生まれ、二人で懸命に働きながら家庭を築いていきました。太郎さんはいつも家族を大切にしてくれて、家族が幸せに暮らせるよう努力を重ね、仕事にも精を出していました。努力の甲斐あって少しずつ資産も築き上げることができました。
そして、歳を重ね、子供が成長し、気がつけば「老後」の生活が目の前に迫っていました。太郎さんと二人で穏やかに過ごし、太郎さんの穏やかな笑顔を見ていると、これまでのすべての努力が報われたような気がしたそうです。しかし、そんな幸せな時間は長くは続かず、太郎さんは体調を崩し、病気と闘う日々が訪れました。長い闘病の末に静かにこの世を去り、ご家族は悲しみに包まれながらも、太郎さんの意志を受け継ぐつもりで相続の手続きを進めることになりました。
ですが、思いもよらないことが起こりました。太郎さんの最初の息子さんにも法的な相続権があると知ったのです。相談者様の結婚生活において、太郎さんが築いた財産がこの息子さんにも渡ることになるとは考えてもみませんでした。太郎さんが遠く離れた息子さんのために何か準備している様子もなく、遺言書もありません。相談者様ご家族は少なからず動揺しましたが、これが法律で定められたものである以上、受け入れざるを得ないこともご理解していました。
ただ、何十年も音信不通で、お互いを知らない息子さんが、今もどこでどのように生活しているのかも分かりません。こうした状況で、太郎さんの財産がどのように分配されるのか、どう整理するべきなのか、心の整理もつかないまま専門家の手を借りることにしました。
まずは相続人の調査を専門家である司法書士に依頼しました。太郎さんには、前妻との間に生まれた息子さんがいることは知っていたものの、その息子さんとは長年にわたって音信不通だったため、どこにいるのか、どうしているのか、相談者様には何も分かりませんでした。太郎さんが残した財産をどうするべきか、相続人を確定するためには、前妻との息子さんの所在を明らかにする必要がありました。
戸籍をたどりながら前妻の息子さんの情報を調べていくのですが。その過程で、驚くべきことが分かったのです。前妻の息子さんは、実は既に亡くなっていたのです。
しかし、それだけでは終わりませんでした。調査をさらに進めていくうちに、前妻の息子さんが生前に結婚しており、その間に子供、つまり太郎さんの孫にあたる人物がいることを突き止めたのです。この孫にあたる人物こそが、現在の相続人であり、太郎さんの財産を受け継ぐ法的な権利を持つことが判明しました。
孫の方も家庭を築いているらしく、若いながらもしっかりとした人生を歩んでいるようでした。初めて聞く太郎さんの孫の存在に、相談者様は複雑な気持ちになりました。何十年も連絡を取っていなかった太郎さんの家系が、こうして思わぬ形で現在にも繋がっているとは夢にも思っていなかったのです。
そして、ここからはお孫さんも含めた遺産分割協議の話し合いに入っていきます。
ここで一つ大事なポイントとして、ご相談者様の「想い」があります。
こういった状況の中で、「今、どうお考えになられていますか?」とお伺いしてみました。
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前妻の息子さんが亡くなり、その子である孫の方が相続人となる――この一連の出来事を通じて、私は改めて家族のつながりについて深く考えさせられました。どんなに長い年月が経っても、血のつながりがあり、相続という形で再び家族が交わることがあるのだと、強く感じています。
これからお孫さんに当たる方と、太郎さんの残したものをどうしていくのかの話し合いが始まります。お互いに知らない者同士ではありますが、私は太郎さんの意思を汲みながら、温かい気持ちで接したいと思っています。
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ご相談者様は、こういった「想い」を持っていらっしゃいました。
もしかすると、今回のご相談者様のように、温かい気持ちを持って相続に臨まれる方は、そう多くはいらっしゃらないのかもしれません。相続に関する場面では、どうしても権利や分配に目が向きがちで、時に対立や不和が生まれることも少なくありません。
しかし、ご相談者様が太郎さんの思いを大切にしながら、皆様が納得できる形での話し合いを望まれている姿勢は、ご家族や関係者の心に響くものがあるかと思います。
太郎さんが遺してくれた財産について、お孫さんにも相続分を分けるという前提で遺産分割協議の話し合いに臨みました。
ところが、話し合いの場で、お孫さんは相続分について一切の主張をされることなく、ご相談者様の想いや家庭の事情を静かに尊重してくださいました。
最終的に、遺産分割協議の結果として、太郎さんの遺産は全てご相談者様ご家族が相続することになりました。
お孫さんは、太郎さんが再婚後に築いてきた財産が、現在のご家族にとって大切なものであると理解してくれていたのかもしれません。ご相談者様としても、お孫さんの温かいご配慮に心から感謝し、話し合いの場が和やかに進んだことを安堵しながらも、感慨深い思いを抱いていました。
こうして、太郎さんの遺産を全て相続する形で決着がつきましたが、今回の相続において、お孫さんを含む関係者間で揉める可能性があるケースはいくつか考えられます。
再婚後のご家族が「自分たちのほうが太郎さんと過ごした時間が長い」として相続分を多く主張した場合、あるいは「お孫さんが太郎さんとは長い間疎遠だったため、相続分は控えめであるべきだ」という主張をするケース。
最初は静観していたお孫さんが、他の家族や専門家の助言を受けることで、遺産の分配に疑問を持ち、正式な相続分の主張に転じるケース。
こうした揉めるケースが考えられるため、事前の話し合いと相続の専門家によるサポートが重要です。お孫さんや再婚後の家族、それぞれの立場を尊重し、法的な権利と実情を踏まえた誠実な対話を続けることで、納得のいく形で相続を進められるのではないでしょうか。
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相続・不動産の相談窓口 合同会社エボルバ沖縄 棚原 良太